可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
生き血ジュースの真っ赤な血だまりをベアトリスはジっと見つめていたが、顔を上げてジンに向かってクスッと笑って切り替えた。
ジン一人だけが、ベアトリスを真剣に見つめていた。
「それ以来どこにいても、嫌われ者街道を突っ走って参りましたわ」
おじい様が亡くなったあと、遺言で入学した貴族学校でも有名な嫌われ者だった。
拾い子であると義姉に言いふらされたベアトリスは、血統を重視する貴族の中で蔑まれ完全に孤立した。
(エリアーナの胸はあと小指の甘皮ほど大きい。柔らかさを完全に表現するんだ賢者サイラス。限界に挑戦しろ)
真顔でサイラスの脳内挑戦は続いている。
そんなサイラスに気づくことなく、孤独な過去など忘れてしまったかのようなベアトリスは余裕の笑みを見せた。
「でも私は口喧嘩が得意でしたので、向かって来たもの全員に言ってやりましたわ」
ベアトリスの強さが光る微笑みに、ジンのみぞおちがまたゾクッと痺れる。
「何と言ったんだい?」
「可愛くてごめんあそばせ!と」
ジンが思わず破顔して笑うと、ベアトリスもクスクス笑った。
おじい様が言った「強く生きて、幸せになりなさい」の願いにベアトリスは真摯に寄り添ってきた。
「醜悪な戯言を言う奴より、間違いなく君の方が可愛いな」
「その通りですわ、魔王様」
全く謙遜しないベアトリスに、ジンは尖った耳をピクピク揺らして最大限の好意を見せつけていた。
(はぁ、そろそろ現実のエリアーナに会いたい)
サイラスは完全に聞いていなかった。