可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
エリアーナは魔王城の二階にあるバルコニーに出た。バルコニーの端っこの柵の上に立って闇夜の空中にロッドを揺らした。
「こんなもん、何が大事なんやろな」
エリアーナはそのまま何の感慨もなく金のロッドを空中に放り投げた。
ロッドは重力に従って階下に落ちていく。
どこに落ちるのか、エリアーナはバルコニーの柵の上から真っ暗な階下を覗く。
「アイニャ、この下には最近な、魔狼が出るんや。
魔狼は光もん大好きでな。たぶんアレを巣に持って帰るで。
持って帰ったらきっともう、二度と見つからんなぁ?
あの女が泣くのが楽しみや」
ロッドが無事に地面に落ちたことを確認して、エリアーナはまたうっとり笑う。
「また遊ぼうなアイニャ。ほな、またな」
ふふっと愉快さが口に収まりきらないエリアーナはメイドスカートを翻した。
アイニャはバルコニーの柵に飛び乗って、エリアーナと同じように階下を覗き込んだ。
エリアーナが消え、一人になってもアイニャは闇を見つめていた。
今ならまだ、ロッドはそこにある。
「ニャ」
アイニャは闇夜に飛び降りた。