可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─

齧り取られた片足の根元から血が滴り落ちるアイニャを抱き上げて、ベアトリスはスカートに包んだ。

アイニャの金色の目が開くことはなかった。


「嘘でしょアイニャ」


アイニャの血がベアトリスのスカートに染み込んでいく。まだ温かいアイニャを抱きしめてベアトリスは唇を震わせた。ジンがベアトリスの隣に片膝をついて、アイニャを覗き込む。


「間に合わなかったか」


現実を示したジンの言葉にベアトリスが首を振った。目に溜まる涙を飲みこんで、まだアイニャを諦めきれない想いでジンを見上げた。


「魔王様、お願いします!たくさん泣きます、涙の小瓶いっぱいに泣きますから!どうかアイニャを助けてください!」


涙が今にも流れ落ちそうなのに、クリスタルブルーの瞳から涙は降らない。ベアトリスがジンに交換条件で差し出せるものは生贄姫の涙だけだ。


アイニャを救える切り札はこの涙だけ。

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