可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
渇望し過ぎる魔王様
ぎりぎりにため込んだ悲痛の想いを飲み込んだベアトリスを見つめて、ジンの尖った耳が動く。
ジンはベアトリスのスカートの中で動かないアイニャに細くて冷たい指先で触れた。
「命は生き返らないんだよ、ベアトリス」
「そんな、魔族の魔術で助けてくれませんか?人間にだって聖魔法が使えます。
封印ができたり、遠くの声が聞けたり、魔狼を一瞬で消せる魔族なら、
治癒の力くらいあるでしょう?!」
だんだんと語気の強くなるベアトリスはジンの胸倉を細腕でつかんで揺さぶった。
人間には魔族のような多種多様な魔術は使えない。だが、聖魔法を使える者はいる。
腕のある聖魔法使いならば、瀕死の傷を癒すことさえできるのだ。
ジンはベアトリスの手を払いのけることもせずに淡々と述べる。
「魔族に治癒の力はない。人間にはできても、魔族にはできないことがある」
「そんな」
「だから魔王ですら、生贄姫の涙を求めるんだ」
「……ッ」
ベアトリスは脱力してジンの胸倉から手を離す。頭の片隅では理解していた。魔族には治癒の魔術がない。サイラスが施す医術の範囲の治療があるだけだ。
だから、魔王の寿命を伸ばす生贄姫条約なんてものが生まれた。
魔国ではもうアイニャを、救う術がない。
「アイニャ、アイニャお願い、お願い死なないで」