可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
ベアトリスはじんわり目頭が熱くなるのを堪えた。
「優しくされると、すぐに泣いてしまいそうになりますわ」
「望むところだね」
ジンが美しく微笑して、また頭を撫でる。こんなにベアトリスに優しくしてくれるのは、今この世に魔王様一人だけだ。
大事なものを全て失った日に、ベアトリスは魔王様の愛を手に入れた。
肩に小さな頭を甘えて寄せてくるベアトリスが可愛くて、ジンは何度も金色の波髪を撫でてしまう。
「これから、君がどんなに美しく泣き喚き、帰りたいと願う時が来ても……もう逃がさない」
ベアトリスが顔を上げるとジンの真っ赤な瞳と、視線が交わる。
「決して離婚などしてあげないよ。
愛して、しまったからね」
魔王様の赤い瞳には優しい支配が滲んでいる。ベアトリスはその独占欲を浴びて、素直に嬉しいと感じてしまった。
ベアトリスはジンに何度も助けてもらい、魔国の居場所に、泣く権利さえ与えてもらった。
さらにジンは贅沢過ぎる愛までくれるという。
ベアトリスがジンを愛すには、十分すぎる理由が積み重なっていた。
「もう手放す気もないが、一応、君の気持ちも聞こうか?」
でももう愛した理由なんてどうでもよくて、理屈なんて置き去りにベアトリスの口が答えを導く。