不埒な上司と一夜で恋は生まれません
「いえいえ。
 私とは遠い人だな、と思っていたというだけですよ。

 まさか私の憧れのこのおうちの住人だとも思ってませんでしたし」

「俺より家か。

 まさか。
 お前、ほんとうに家目当てでここにいるのか?

 図書館前の白い家に住んでいる男なら、なんでもいいのか?」
と顔を近づけ、脅される。

「いや、そんな莫迦な。
 じゃあ、サントリーニ島とか行ったらどうしたらいいんですか」
と和香は苦笑いする。

 エーゲ海に浮かぶサントリーニ島には真っ白な家ばかり建ち並んでいる。

 あの島に図書館があるなら、図書館の前も白い家だらけに違いない。

「……お前、初めての夜も、きっとロクなこと考えてなかったんだろうな」

 横目に見ながら、耀がそう言ってくる。
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