不埒な上司と一夜で恋は生まれません
「初めての夜と言いますと」

「最初にここにお前が送ってくれた夜だよ」

「あー、あのときは……」

 きゅるるっと和香は記憶を巻き戻してみた。

 以前は、嫌な記憶ばかりが鮮明だったが、今は、ほとんど楽しい記憶で埋め尽くされている。

「この人は誰の派閥だったかな?
 私の敵か、味方か。

 どっちになりそうかな、と課長の寝顔を見ながら考えてました」
と素直に白状して、

「少しはときめけっ」
と言われてしまう。

 そう言うと言うことは、この人は、目を覚まして私の顔を見たとき、少しはときめいてくれていたのだろうか、と思い、ちょっと照れる。

「でも、今は課長が好きですよ」
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