不埒な上司と一夜で恋は生まれません
あ~、そうだったそうだった。
それで、めちゃくちゃ的確に指摘してくるくせに、実は酔っている面倒臭い課長を二次会に行かない私が同じタクシーに乗せて、連れて帰ることになったんだったっ。
二人きりのタクシーの中。
耀が、会社の方針について語っているのを和香は子守唄のように聞いていた。
めんどくさい課長様とはいえ、相手は口からご立派な話を垂れ流しているだけの正気でない酔っ払い。
大勢いた空間から、ある意味、一人になったようなものだったので、気が抜けたのか、和香も、うとうとしてしまった。
「着きましたよ」
と運転手さんに言われた和香は慌てて、耀の腕をつかむ。
耀も寝ていたからだ。
スクラムを組むラグビー部員たちのように体勢になり、耀を引きずり降ろした。
「ほら、課長。
鍵を出してください」
と今は静かになっている耀をなんとか歩かせながら、玄関前で言ったとき、後ろで、バーッとタクシーが走り去ってしまった。
ああっ、と慌てて和香は振り向く。