不埒な上司と一夜で恋は生まれません
 ちょっと待っててくださいって言うの、忘れてた~っ!

 しかも寝ぼけていた和香は、降りるとき、反射でタクシーチケットを渡してしまっていた。

 会社の呑みだったし、和香が耀を送っていくというので、別の上司が、
「頼んだぞ」
とタクシーチケットをくれていたのだ。

 だが、振り返ると、いつの間に鍵を開けたのか、玄関扉が内側に向かって開いていた。

 耀の目はほとんど閉じている。

 だが、無意識のうちに家に入ろうとしているようで、和香とスクラム組んだまま、流れるように靴を脱ぎ捨て、入っていった。

 仕方ないので、和香も急いで足を振って、パンプスを脱ぎ、ついて入る。

「あの~、課長、大丈夫ですか?
 ちゃんとベッドに入って寝られますか?」

 うんうん、と耀は頷くのだが、肩を組んでいることに気づいていないのか。

 そのまま進んでいくので、和香も一緒に廊下を進む。

 ……面倒な酔っ払いには逆らうまい。

 ベッドに落として逃げよう。

 そう和香は思った。
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