「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
 自分自身に対するモヤモヤとイライラでどうにかなりそうになりながら、階段を二階へと上がって行く。

 男らしく「カヨはおれの妻だ」と宣言すればよかった。あるいは、「手を出すな」と恫喝してもよかった。もちろん、二人の会話がきこえたのだということを伝えた上でだ。

 そのどれもが出来なかった。

 二人に遠慮をしてしまった? どうして? カヨとの付き合いの長さは言うに及ばず、親密度だっておれの方が断然濃くて深い。そのはずだ。なにを遠慮する必要があった?

 まさか三人でスタートラインに立ち、カヨに向っていっせいにダッシュをするなどという「紳士の鑑」のようなものがおれの中で発動された、とか?

 もしもそうだったのなら、おれは救いようのないバカだ。
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