「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
 そのカフェを見た瞬間、すぐにそこを好きになってしまった。

 バラに囲まれ、店の内外に関係なく席と席の間隔がほどよく開いている。そして、すごく静か。

 なにより、のんびりした空気感がいい。

「よくこんなところを知っているわね。もしかして、プライベートで使っているの? デートでとか?」

 バラのアーチをくぐり、店のエントランスへと歩きながら小声でエドムンドに尋ねた。

「そ、そのようなこと、デートなどと、そのようなことはいっさいありません」

 自分自身も含めて緊張をやわらげる為に言ったつもりだった。しかし、エドムンドはそうはとらなかったみたい。

 つねに冷静でポーカーフェイスな彼が、慌てふためいているのを初めて見た気がする。
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