「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
「ダマスクローズです」

 ほどなくして、さきほどの店員がお茶のポットとカップを運んで来た。

 彼がカップへと注ぎ始めた瞬間、濃厚な香りが鼻腔をくすぐる。

「ダマスクローズ? たしか、おれのもそうだったな。ここから見えるバラの中にあるのか?」

 宰相が尋ねた。

 わたしたちに対する言い方と違い、ずいぶんと横柄な言い方である。

「いいえ、ございません」

 わたしたちのカップに注ぎ終わった店員は、にこやかに答えた。
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