「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
「遺言だと? ヘルマンの戯言を信じているのだろうが、そのようなものは存在しない」

 宰相は、獣のうなり声のような声で続ける。

「きいたか、カヨ。てっきりおれの出自のことで否定されると推測していたが、どうやら遺言そのものがなかったことになっているらしい」

 クストディオは、隣でおおげさに驚いてみせた。

(クストディオは、暗殺された国王の血を引いていないことにされるつもりでいたのね)

 そのことは、わたしも予想していた。だけど、たったいま宰相が言った通り、遺言じたい存在しないと言い出すことも予想していた。

 なにせそのことを知っているのは、限定されている。

 最初から「国王の死はあまりにも突然で、遺言等なにも残さず、託さなかった」と言いきることだって難しくない。
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