「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
「それはともかく、どこか痛むところは? いいよ。立たなくていい。おれがきみを居間へ運ぶから」
「なんですって? わたしを運ぶだなんて、いったいどうやって?」
「きまっているさ」

 彼はそう言うなり、地下室前の狭い空間の中でわたしを軽々と抱き上げた。

 これって書物に出てくる「お姫様抱っこ」、よね?

「キャアッ」

 ドキドキばくばくに加え、お父様とお兄様以外にされたことのない抱っこに叫び声をあげていた。

「大丈夫。いくらきみが重くても、おれはちゃんと運ぶから」

 彼の台詞は、おおいにひっかかった。ひっかかったけれど、抱っこの衝撃の方が強かった。

 黙って彼に抱きかかえられるままになっている。

 いままでだったら、「おろしてよ」とか「恥ずかしいじゃない」とか、彼に文句を言ったはず。あるいは、暴れて無理矢理やめさせ。

 それなのに、なぜ? どうしてされるがままになっているの?
< 237 / 426 >

この作品をシェア

pagetop