「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
「階段をのぼるが、振動などで痛みがあったらすぐに教えてくれ。ほら、おれの首に腕をまわすといい。その方が姿勢がラクになるはずだ」

 考察している間に、クストディオがこちらを見おろして言っていた。

 やはり言われるまま、彼の首に両腕をまわした。

(やだ……。さらに近いわ)

 それでなくても充分近すぎるのに、彼の顔とわたしのそれとがさらに近くなった気がする。

(し、心臓が持ちそうにないわ。わたしの心臓、急性的ななにかかしら?)

 鼓動もかなりはやくなっている。それに「ドクドク」と耳が痛いほど脈打っている。

 その音がクストディオにきこえやしないかと、不安になった。

 そのクストディオは、わたしをお姫様抱っこしたまま一歩一歩階段をのぼってゆく。その力強い一歩一歩に驚きを禁じ得ない。

 彼ってこんなに頑丈でしっかりしているのね。

 彼は、子どものときは頑丈ではなかった。肉体的にも精神的にも。

 体格も十二、三歳頃まで、わたしの方が背が高かったし、全体的に立派だった。
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