「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
「その、カヨ様はそのようなことはありません」

 厨房内の淡い灯火のせいかしら? 彼の可愛らしい顔が真っ赤になっている気がする。

 もしかして、熱でもあるのかしらね?

「『そのようなことはない』って、なんのこと?」
「その……」

 彼は、言い淀んだ。

「あの、その、第一王子が言ったようなこと、です」
「ああ。『そそられない』ってこと?」
「そんなこと、そんなことありません。その、カヨ様は魅力的、そう魅力的です」

 こちらに体ごと向いて真っ赤な顔で叫ぶ彼が尊すぎる。

 うれしいけれど、申し訳ない気もする。

 こんなに気を遣わせてしまって、と。

 無理しなくてもいいのに、と。

 ほんとうに真面目だし、思いやりの塊なのね、とも。

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