「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
「カヨ、きみだ。きみ、太ったよ」
「な、なんですって?」

 反射的に立ち上がっていた。

「このわたしが? どれだけ食べても太ることのないこのわたしが? ヘルマン。あなた、いったいどういう目をしているのよ。その青い目は、節穴すぎるわ」
「カヨ様、大丈夫です。カヨ様は、ちっとも太ってはいません」

 背後でフェリペが叫んでいるけれど、彼はそう思っていてもヘルマンはそうは思っていない。

「ヘルマン。いくらなんでもレディにそれはないだろう? カヨは、一応レディだ。太ったなんて言われれば、面白くないにきまっている」
 
 クストディオも言ったけれど、ヘルマンのフォローどころかますますわたしの怒りに火を注いだだけである。

 が、急に思い出した。

 いまはわたし個人のガラスのハートにヒビが入ったことについて、語り合っている場合ではない。

 くだらない時間をすごしすぎてしまった。
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