「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
「カヨ、なんなら見てみるか?」
「いったいなにを……」
「痣、だよ」
「……。ちょっと待って。さっき、『臀部の醜い痣』って言ったわよね?」
「ああ、言ったさ。右の臀部にあるんだ……、って痛っ! なにをするんだ」

 彼の左頬に平手打ちをしていた。

 それはまさしく、反射的だった。

「やめてちょうだいっ! クスト、あなたってほんとデリカシーの欠片もないのね。信じられない」
「なぜだよ。前ではない。うしろだ。言っておくが、おれの尻はきみのと違って尻えくぼのあるカッコいい尻だ。自慢したいくらいだ。きみも惚れ惚れするにきまっている」
「バカバカバカ、クストのバカッ!」

 叫んでいた。これもまた反射的に。

「信じられない。こんな男、ぜったいに許せない。出て行って」

 両手で力いっぱい彼の胸を押した。主寝室へと続く扉から彼を押し出したかった。

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