「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
 たとえば、おれたちが夫婦ではないということも。

 そのことを話している間に気がついてしまった。まさしく「気がついてしまった」、である。

 ヘルマンもまた、カヨに気があるということに。

 カヨ。きみは、いったいどれだけの男に魅了されれば気がすむんだ?
 これだったら、まだクズ皇太子ダニエル・ウルバルリと婚約しているときの方がずっとよかった。

 というか、アルファーロ帝国では、カヨは「世紀の悪女」と呼ばれ、怖れられていた。周囲の男たちは、彼女を怖れ厭うことはあっても、彼女を恋愛要素で見たり想ったりは皆無だった。それどころか、いっさいの交流をもとうとせず、避けまくっていた。

 それが、このバラデス王国に来てから一変してしまった。

 彼女は、急にモテるようになった。

 きっと彼女の正体を知らないからだ。

 いずれにせよ、またひとりライバルが増えた。

 これだけは、間違いのない事実というわけだ。 
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