「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
 もちろん、わたしたちがそんなことをするわけがない。

 いまのところは、だけど。

「心配しなくてもいい。きみたちは安全だ」

 ヘルマンは、わたしたちの苛立ちをさらに増してくれる。

「エドとフェリペがいるかぎり、暗殺者たちが大挙して押し寄せようと、バラデス王国軍が攻めてこようと、きみたちは無事に生き残れる」

 なんていい加減なの。無責任すぎるわ。

「だろう、エド、フェリペ?」

 今夜は給仕役に徹しているエドムンドとフェリペは、厨房へと続く扉の間で控えている。

 ヘルマンの呼びかけに、彼らはヘルマンではなくクストディオとわたしを見た。

「ええ、そうですね。おれたちは、かならずやクスト様とカヨ様を守り抜きます。たとえ神が相手でも……」

 エドムンドは、わたしたちを見つめたままはっきりと断言した。

 フェリペもまた、わたしたちを見つめている。その可愛い顔には、兄と負けず劣らず自信がみなぎっていた。
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