「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
「カヨ、それは違う。おれは、おれはきみのことを……」

 重ねられている彼の手が、わたしの手を握った。

 彼はわたしの手が痛みで悲鳴をあげそうなほどギュッと握りしめ、なにかを言いかけた。

 その瞬間、頭上で大きな物音がした。

 具体的には、複数人が暴れているような音である。

 クストディオがロウソクに息をふきかけた。

 一瞬にして真っ暗になった。

 反射的に息を潜めていた。

「大丈夫。大丈夫だから」

 クストディオのささやき声。

 わたしの手を握る彼の分厚くて大きな手は、安心と信頼を与えるに充分だった。

 頭上の音は、まだ続いている。

 暗闇の中で向き合い息を潜めるわたしたち。

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