「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
(知らなかったのね)

 クレメンテにうまく言いくるめられていたのか、あるいは都合のいいところだけ明かされていたのだ。

 アルマンドもヘルマンもショックでただただ呆然としている。

「先に死んだらいいよ。心配はいらない。クストディオは、すぐにでも見つけだして殺すから」

 クレメンテの両腕がこちらに伸びてくる。

 それがやけにゆっくりで、二匹の蛇が迫ってくるように見える。

 足が勝手にうしろへさがって行く。だけど、それも三歩さがったところで止まった。狭い部屋の為、壁に背中があたってしまったからである。

 さがった分、クレメンテが追いかけてくる。厳密には、彼の両手が。白くて長細いきれいな指が、いままさにわたしに触れようとしている。
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