「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
(クスト、助けて)

 心の中で叫んだのは、クストディオの名前だった。自分でもどうしてだかわからないままに。同時に、瞼を閉じていた。

「カヨ、呼んだか?」

 その瞬間、待ち望んだ声が耳に飛び込んできた。それは、まさしく幻聴のように耳に響いた。

「おれのカヨに触れるな」
「ギャッ」

 直後、クストディオの低くて鋭い恫喝のうなり声がし、尻尾を踏まれたネコのような悲鳴、さらには鈍い音がした。

「カヨ、もう大丈夫だ」

 恐る恐る目を開けると、クストディオの美貌が眼前に迫っていた。そう認識したときには、彼の広くてあたたかい手に肩を抱き寄せられ、彼の大きくてやさしい胸の中におさまっていた。
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