「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
 彼は、乗馬を終えてひと休みしているようだった。

 乗馬服姿がよく似合う。渋い美貌には、大好きな乗馬を心ゆくまで楽しんだ余韻が残っている。

「ひとりでやって来るとはな。なかなか度胸があるではないか、王子様」

 近づくおれにそう言ったのは、宰相イグナシオ・オルティスだ。

「昨夜、命を狙われました。暗殺者たちに襲われたのです」

 時間(とき)がもったいないとばかりに、挨拶抜きでそう切り出した。

「ほう……」

 その瞬間の宰相の表情を見逃さない。

 黒服たちは、おれの背後すこし離れた所に並んで立っている。

 おれが宰相に飛びかかろうというそぶりを見せれば、あるいはそのような気を発すれば、いっきに間を詰めておれをおさえつけるだろう。
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