「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
 冗談を返すだけの余裕があるふりをするのも大変だ。

 だが、彼は笑ってくれた。だから、おれも笑った。

 顔がひきつっていないことを祈りながら。

「その馬場にいる黒馬、どう思う?」

 笑いがおさまると、彼は馬場のひとつを顎で示した。

 振り返ってそちらを見ると、馬場内を黒馬がのんびり歩いている。

 陽光の下、精悍だがしなやかな肢体がキラキラと輝いている。

「うわぁっ! きれいな馬ですね。美しく気高く、なにより速そうだ」

 いまの状況も忘れ、本音を言っていた。

「おれの自慢の馬だ。それで? 用件を言え」

 彼も時間(とき)がもったいない、と思うタイプだ。

「共闘しませんか?」

 だから、そうストレートに申し出た。

 それから、おれたちの作戦を話した。
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