「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
 バルコニーに出ると、裏庭とご近所さんの屋敷が薄暗闇の中ボーッと見える。

 裏庭は殺風景である。木が数本あるだけで花壇や銅像があるわけではない。

(ほんとうに隠れ家なのね)

 つくづく感じる。

 それでも、だれも住んでいないというようなかび臭さや湿気はない。管理人が定期的に清掃やメンテナンスをしているに違いない。

 バルコニーにある真鍮製の椅子に座り、しばしボーッとした。

 どの位ボーっとしていたのかしら。

 そのタイミングで廊下側の扉がノックされた。返事をすると、「夕食だ」とエドムンドの声が返ってきた。

「クルルルル」

 いいタイミングだ。

 お腹の虫がそう言った。
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