天使が消えた跡は
「ルーク」
「え?」
「こっちの妖精がルーで、あなたはルーク。ちょっと適当につけすぎちゃったかな?」
駄目ならもう一度考え直すけど……ともごもご喋る薫を見つめる天使は数秒間動かなかった。
「何かあった? 困ってる? 驚いてる?」
「あ、いや、なんでもないよ」
ルークは被りを振って冷静を取り戻す。
「じゃあ、話の続きに戻るけど、もし悪魔になってしまった天使が薫の元にきてしまったら、きっと式神を使って攻撃してくると思う。
へたをしたら殺されてしまうかもしれない。それに対処できるようにしないといけない、そのためにここに来たんだ。」
殺されるかもしれない? 一気に現実味が無くなった気がした。
それか、一気に現実味が増してしまったのかもしれない。
悪魔になってしまうような人間なんだから、もしかしたら人間のことを殺してしまうなんてたやすいことかもしれない。
日に日に身体が悪魔へと変わってしまっているのであれば、なおさら人間らしい感情何てどこかに行ってしまうのかも。
いったい今はどんな状況なんだろう、本当にそんな人が存在するのかもわからないし、存在しているならば、悪魔へと変わって強くなっているのか、体の変化に追いつかなくて弱っているのか。
どちらにしろ、ルーが現れて、ルークが現れて、天使だとか悪魔だとかの話を聞かされて、もうこれは全て現実のものだと認めざるを得ない、そう覚悟を決めた。
「だとしても、相手は悪魔なんでしょう? そんな状態の人間に私みたいな一般人がかなうはずはないと思うんだけど……殺されちゃうのかな」
不安げに自分の身体を抱きしめる薫。
じっと宙で立ち、薫の横に居たルーは薫の頭の上に移動をし始めた。
「王子様が言ってたよ、薫ちゃんには力があるって」
力? そりゃぁ、運動神経はいいねって言われることは多いけれど、それとこれとは話が違うのでは?
100メートル走で競うわけでもないだろうし……。
考え込んでいたら、ルークはそっと薫の頬を撫で、
「そう、薫にはもう力があるよ。悪魔を倒すくらいの力はね」
と。