天使が消えた跡は
「あなたは王子じゃないの? 付き人?」
「そうだね、僕は付き人みたいなものさ。じゃぁ話を戻すよ。選ばれた薫は、力を持っている。薫にも悪魔退治を手伝ってほしいんだ」
なんだかややこしい話になってきた。現実か非現実かの前に、理解が追い付かない。
「悪魔を倒して、天使の存在を証明してほしい。何度でもいうよ、君には力がある。
そこのテーブルにリンゴがあるね。ちょっと喋りすぎたから食べさせてもらってもいいかな?」
「いいけど、ナイフを持ってくるからちょっと待ってて」
立ち上がろうとする薫の腕をつかむルーク。
「はいどうぞ」
テーブルの上からリンゴを取り上げると、ルークはそのまま薫の左手に手渡した。
「手のひらからナイフが出てくるイメージを持って」
そんなこと言われても……。
「出てきた……!?」
確かにナイフだ、いや、形はナイフだが、それは黄色く光っていて、光そのものがナイフの形をしている。
果物ナイフのように握り直し、リンゴの皮をむき始めた。凄い切れ味だ。
思うだけでナイフが出てくるのであれば、包丁のようなものやフォーク、スプーンなんかも出てくるんだろうか? と想像するたびに次々と光は形を変えていった。
「やだやだ! 消えて!」
恐怖を覚えた薫が叫ぶと、光は一瞬にして消えてしまった。
「使い方は分かったね」
おろおろする薫の様子を微笑ましく見守りながらルークは確認するように語りかけた。
「しばらくの間俺はこの部屋に住まわせてもらうよ」
唐突にそんなことを言い出したルークに顔を真っ赤にする薫。
「いやいやいやいや、それは困るよ、だってルーク男の子でしょ?」
「まぁ、男だけど……薫に何かあったら悲しいからね。大丈夫、ちゃんと空気を読んで目を瞑ったりするから」
そういう問題ではない!