天使が消えた跡は
恐怖に身体を身震いさせる。
「今日は土曜日か、今日これからと、明日は絶対ここから出るな。出たか必ずサラクは薫を狙うはずだから」
そう言うルークはテレビを凝視したままで真剣なまなざしだ。
心配してくれているんだ、と薫の恐怖は少しだけ和らいだ。
いけないいけない、真剣に考えてくれているんだから自分の感情をさらけ出しちゃいけないよ。いやいや自分の感情ってなによ。
薫はしばらくルークの横顔を見つめていた。
翌日の日曜日。
そういえば、明日までの宿題があったんだと思い出した薫は学校カバンを手に取り中をあさり始める。
「……あ」
妙な雰囲気を感じ取りルークが声を掛けてきた。
「何か忘れものでもしたのか?」
カバンの中を見下ろしていた渚は恐る恐る『うん』と答えた。
「はぁ……大事なものなら気を付けて取りに行け。学校なんだろう?」
はい……と苦笑い。
ルーを頭にのせて学校まで歩く。ひとまず周りには誰も居ないようだ。
教室に入り、自分の机の中に置き去りにされていたプリントを見つけて手に取るとすぐさま寮へと向かう。
廊下に出ると『薫ちゃんだ』と声を掛けられた。
声のした方を振り返ると同じ学年だろうか、男子生徒がこちらへ小走りで近づいてきた。
「どうしたの? 今日日曜日だけど」
そういう君も何をしに学校に来ているのかな? と思いつつも、
「忘れ物しちゃって。このプリント」
そう言ってひらひらと昨日渡された宿題を見せる。この先生宿題忘れたら面倒くさいからな、なんて他愛もない話をしながら学校を出た。
量までの渡り廊下が見えてきた時に例の彼女『サラク』を見つけてしまった。
「アナタ、ツヨイ。デモ、ヒツヨウナイヒト」
ひどい形相だ。
「必要ない人って、そんなことを言って私も殺す気なの?」
連日のニュースを思い出して一歩、また一歩と後ずさりする薫。
「アト、アナタヒトリ……」
こちらの言うことにはまったく耳を貸さない様子。異様なまでの殺気が薫に向けられていく。
「δαπγφκθθЧσ……」
彼女は左手を前に差し出し、何やら呟いている。