天使が消えた跡は
その左手から黒い液体が染み出し、ぽたぽたと地面に落ちる。それは次第に何かの形に成形されていった。
「な、なんだよあれ……」
寮の近くまで送ってくれると言っていた先ほどの男子生徒も恐怖におののき始めた。足もすくんでいるようだ。
黒い液体は猫の姿へと変貌し、そして膨張し始める。
猫の皮を破るように中から出てきたのは見たこともないおぞましい生物、牛のような像のような虎のような……。
それがいきなり突進してきた。身体を避けて逃げようとも思ったが、後ろには男子生徒が居る。
すぐにルーを呼んで男子生徒を担ぎ上げ、天井へと逃げた。
サラクの目的は自分だろうと離れた場所に彼を避難させ、光のナイフを取り出した薫は謎の生物に向き直る。
再び宙に浮き、上から胴体を真っ二つに切り裂いた。
『今回はあっさり倒せたなぁ……?』
その時……!
「うわっ!」
下半身がすごい勢いで飛んできた。そう、走ってきたのではない、飛んできたのだ。
偶然にも構えた右手のナイフでその下半身は二つに裂け、そのまま地面に落ちて黒くなって溶けて行った。
上半身はと言うと、それだけでもごもごとうごめいてとても気味が悪い。
『首でも切り落としたら倒せるのかしら』
そう思い、気合を入れて根性で首を切り落とした。
「切れた!」
と喜んだのもつかの間、その切り落とした首が飛んできて、薫の左腕にかみついた。
「――――痛っ!!」
鋭い牙を持っていたようで、噛みつかれた左腕には簡単に穴が開き、血があふれ出す。
あまりの痛さに我を忘れた薫は、自分の左腕ごと、ナイフで謎の生物の頭を切り落としてしまった。
頭は半分に割れ、そのまま下に落ちどろどろと溶けて行った。
『私の腕!?』と焦る薫だったが、腕は切れていなかった。
ただ、生物に噛まれた跡から痛々しく血が流れている状態だった。
相手はまだ頭のない上半身でうごめいている。本当に気味が悪い。
しかし気味が悪いどころの話ではなかった。切り裂いた下半身と頭が生えてきたのだ。
蘇生能力があるらしい。これではきりがない。
『やっぱり心臓を貫くしか倒す方法はないみたいだね』
ルーの言葉が聞こえる。
心臓……上半身のどこかに存在しているであろう心臓がもしとても小さいものだったならば、切り刻む必要も出てくるかもしれない。
恐怖と不安がずっと体から離れてくれないが、やるしかない、だって殺されてしまうのだから。