天使が消えた跡は
しかし、サラク本人を殺すわけにはいかない。同じ轍を踏んでしまっては元も子もない。
「何度も追い返しているんだ。薫が一人で居るときに限らず襲ってくるかもしれない」
そう言うルークに頷く薫。関係のない人たちを巻き込むわけにはいかない。
しかしそんな状況が実際に発生した場合、薫がクラスメイト達を、学校内の生徒たちを守らなければいけなくなるのだ。
防御を知らない薫にとっては、苦戦を強いられる可能性が高い。他の8人のように殺されてしまう映像が思い浮かんでしまう。
「また次学校内で出会ったら、外に誘導するのが一番かもしれないな」
そのルークの言葉に頷く渚の顔は少し硬かった。
あれから1週間。また手紙が届いた。
例の王子様からだった。冬に来るようにと言っていたのは、王子様の国の冬という意味だったらしい。
日本で考えれば丁度夏休みの時期だ。休みに入ったらすぐにでもそこに行こうと考えた。
その方が命の危険がないだろうと考えたからだ。
着いてしまえば、王子様のいる前で殺人など侵さないだろうと言う考えもあった。
相手もそれには感づいているだろう、それまでの間彼女からの攻撃の勢いが強まるだろうから注意するようにとルークから念入りに注意された。
次の日、教室での授業中。窓の外ではカラスが群れを成して飛び回っていた。
『不気味で嫌』とクラスの誰かが声を漏らす。確かに、真っ黒いカラスが教室の窓を覆いつくさんばかりの大群で飛び回っているのだから。
他のクラスメイト同様窓の外を凝視していた薫が見つけたもの、鷹だった。
こんな低い所に鷹なんているわけがない、そして薫の頭の中に浮かんできた3文字。
―――サラク。
同じように鷹に気付いたクラスメイトが一人、また一人と窓に向かって歩き始める。
「窓に近寄っちゃダメ!」
教室内に響き渡る薫の声。
『ルー、羽根になって』
小さくルーに呟くと、薫は窓を開け、外に出て行った。
「やっぱり……」
案の定、その鷲は先ほどよりも二回りほど大きさを増して薫の前に現れ、その翼を大きく動かしている。
勢いよく出てきた巨大な二本の足。
その大きさと、鋭い爪に一瞬怯んだ薫はがっしりとその足に両肩を掴まれる。
「あああぁぁぁぁ……―――!!」
そして容赦なくその爪は薫の肩に食い込んで来る。
何とか意識を保ち、右手からナイフを作り出したが嘴で腕ごと加えられ、振り回される。
「いっ……! ああぁぁ……!!」
そのたびに肩の鋭い爪が余計に体に食い込む。
「薫ちゃん!」
「薫!」
教室からの声。
しかしそれも次第に小さくなっていって―――――……。
―――――薫の意識はなくなりかけていた……。