天使が消えた跡は
『ありがとう。でも……』とルークは小さくつぶやく。
「もう一つ、薫にはつらい思いをさせなくちゃいけないんだ」
そう言って空を仰ぐ。
「もう天界に戻らないといけない」
心臓がぎゅっとした。
「約束をしたんだ。姉を助けるために愛する人間と結婚するって」
姉を助ける……?
「サラクはね、姉を殺したにも等しい悪魔なんだ」
「お姉さんを殺した悪魔……? 海外の、人間の女性じゃないの?」
「姉だって、曲がりなりにも天使だ。悪魔を赦す心は最後まで持っていた。
転生して人間として生きて行けるように残り少ない力を使って彼女を赦したんだ」
お姉さんにはいったい何があったのか全く見当もつかないけれど、悪魔と天使の間で諍いがあったことだけは分かった。
「じゃぁ、お姉さんの仇が打てたのね」
「そうだね。仇を討った。でも、それは天使のやることじゃない。やってはいけないことだ。
そのために僕には罰が与えられることになっている」
「罰……?」
「愛する人と引き離されると言うこと。そして、その愛した人間を天使にすること。そして……」
愛した人を天使にする……?
背中に生えている羽根を思い出し、そういえばルーとずっと会話をしていないことに気付く。
「俺自身の手で、愛する女性を孤独にさせるということ……」
「孤独……?」
「そして、その女性が天使から解放されるまで監禁され続けること、その女性と同じ孤独を味わい続けることが俺の罰だ」
それって、自分の姉の復讐のために私はルークに使われたということ……?
でも、それは私のことを愛してくれていると言う最大の証明……。
「名前の付いた天使が居る。愛の天使、裸の天使、知恵の天使、孤高の天使……ほかにも沢山の名前がある。
それはすべて、姉の心が分かれて生まれた天使たちなんだ。」
お姉さんの心が分かれた天使……。