天使が消えた跡は
「あ、来る」
そう言うとルーは服装を整えて宙に浮かんだ。
「何が来るのよ、マスコミはごめんよ」
そう言いながら薫もベッドに座り直り、ルーを見つめている。
ルーは愛らしい顔ながらも真剣みの含んだ顔立ちでしっかりと宙に立っている。
30秒か、1分か、そんな時間にも思えたが、おそらく数秒の事だったと思う。窓も開いていないのに、小さな風と共に、部屋の中に懐かしい香りがした。
まさかと思い自分の正面にある窓を見ると、そこには天使が経っていた。
「可愛い女の子に成長したね」
とほほ笑む天使。
小さなころの残像が所々よみがえる。
――――――――『大きく見える小さな公園』
―――――――――――――。
――――――――『小さな風が小さな竜巻を作り出す』
―――――――――――――。
―――――――――『「また会えるから」』
――――――――――――――――――……。
「あの時の……」
その先の言葉は薫の口から発することが出来なかった。
あまりのことに感動が全身を駆け巡っていたのだ。
あの時のことは誰にも言っていなかった。自分だけの、薫だけの秘密にしていたのだ。
それから10年以上も現れない天使に、ずっと夢を抱いていたのだ。
それが、その小さな小さな天使が、今薫の目の前に大きく成長して――――。
『かっこいい……』
――そう。とても顔立ちの良い天使となって表れたのだ。
あまりの感動に目を潤ませようとしたその時。
「感動に浸っている場合じゃないよ。大変なことが起こったんだ」
そう言って薫と共にベッドに座る。
「君を婚約者に選んだ王子が、他に9人の人を選んだのは知っているよね?」
小さくうなずく薫。
「その9人はみんな天使になる可能性の高い人なんだ。もちろん君もね」
……天使になる可能性?
「今は意味が分からなくてもいい。とにかく10人は天使になる可能性が高い人物なんだ。そしてそのうちの1人はすでに天使になってしまった」
「天使に『なってしまった』? 天使になるっていうのは、不幸なことなの?」
「そんなことはない。と思いたいけれど、今回はあまり良い結果にならない可能性が高いんだ」
天使はゆっくりと下を向き、うなだれるように小さく言葉を続ける。