全てをくれた君に贈る、僕の些細な愛の詩

1.子犬のワルツ

長くて暗くて寒い夜を終わらせてくれたのは君だった

君はよく「僕がいてくれたから」と言うけれど、本当は、君がいてくれたから、僕は生きていられたんだよ


1 子犬のワルツ

「今日ね、京子たちが箱田さんの悪口言ってて、なのにわたし、また何も言えなかったんだ…。最低だよね、だけど、一人になるほうが、悪口を言うよりいや。もうどうすればいいの〜〜〜」

僕の目の前で頭を抱えている少女は、さくらちゃん。

僕たちは10年来の友達だ。

だけどさくらちゃんは僕の名前を知らない。

「こんなのクマ吉に言っても仕方ないけどさ、女子って大変なんだよ…」

もちろん僕の名前はクマ吉じゃない。本名は春人だ。

なのになんでこんな名前で呼ばれてるかというと、僕が着ぐるみだからだ。

「いいよねクマ吉は。女子のつらさなんて知らなくていいんだもん」

そういいながら、さくらちゃんは僕の頭を撫でまわす。
僕はもう21歳なので、17歳の子に撫でられるのはちょっと恥ずかしいが、動かないよう努力する。

「あっ、やばっ、もうすぐピアノだ。またねクマ吉!」

そう言って、さくらちゃんは慌てて白い椅子から立ち上がり駅のほうへ走って行った。

「ふう」

僕は息をついて”頭”をとった。

ついでに柔らかな”体”も脱いで、春の風を全身で感じる。

僕はしがない大学生。兼、着ぐるみ。
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