【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
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 すべての必要な仕事をやり終えて部屋を出ていく彼女の後姿を見送った。
 そこでやっと一息をつく。
 彼女に合わせる顔がなくて、今日はいつもの時間になってもベルを鳴らさなかった。それでも彼女は普段の時間よりも幾分か過ぎた頃、この部屋へとやってきた。
 その事実に心が喜んだのは、どこかでそれを期待していたのかもしれない。
 と同時に、何事もなかったかのように平然と姿を現した彼女に苛立ちも感じた。意識していたのは自分だけだったのかと。
 だが彼女は魔力交感の重大性を理解していなかったらしい。フリージアから聞き、相当焦ったのだろう。
 アルフォンスが言っていた通り、彼女の目は大きく開いたり、細くなったりとくるくるとよく変わった。それでも口調は淡々としていたし、頬が緩むこともなかった。
 彼女が用意した朝食に手を伸ばす。
 エミーリアは不思議な女性である。
 普通の女性であれば、いや女性に限らず男性であっても、むしろ性別に関係なく彼の顔を一目見れば、怯む。だが彼女はそれすらなく、淡々と言葉を交わし仕事をこなす。
 ニコラースの話を聞かなければ、今よりももっと彼女を特別視していただろう。
 飲み込んだパンが喉元につかえる感じがして、お茶を飲んだ。
 彼女が書き上げた資料にも手を出す。一目見ただけでも、これがよくまとめられていることがわかる。
(学園を首席で卒業というのも、あながち間違いではないのだろうな……)
 彼女への興味は高まるばかりだ。
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