【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 それが彼の補佐事務官は長続きしないと言われている理由でもある。だが、真実は別なところにある。
 騎士団入団試験の身体検査で不合格となったエミーリアと会ったのは、ニコラースに紹介された時が初めてであった。
 彼女は小柄な女性であった。書類上の数値は知ってはいたが、実際に見ると思っていたよりも小さかった。
 今まで『闇』候補として送られてきた事務官と同じように声をかけると、彼女は自ら動き始める。
 最近では見ないタイプの事務官、いや『闇』候補だ。
 近頃の『闇』候補は、精神的に弱い者が多かった。ローランが少し睨みを利かせれば怯え、声を荒げれば怯んで一歩下がる。場合によっては逃げ去る。世代のせいと言えばそうなのかもしれない。魔獣が減り、平和に現を抜かしている
 そういった者が『闇』に相応しいとは思えない。そして彼らは自主的にローランの元を去っていく。
 だがローランの側で得た情報を外に漏らしてもらっては困る。特に、控えの間とも呼ばれている資料室にある情報には機密事項さえ含まれている。
 だから彼らは、ここを去った後すぐに長期休暇に入るのだ。休暇が明けたときには、何事も無かったかのように事務官として復帰する。
 エミーリアの褒めるべきところは他にもある。
 彼女は毎朝、剣術に励んでいる。
 ローランがそれに気づいたのは、彼女と出会って十日頃経った日の朝だった。
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