【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 国王が口にした内容であれば、報告の義務はない。だが、ローランとエミーリアはそもそも恋人同士ではない。
「ですから、エミーリア事務官と俺は、そういった関係ではありません」
「ほぅ。名前で呼んでいるのか。お前が? ほぅ」
「それは、グロセ家にはアルフォンスもフリージアも騎士団所属で紛らわしいからです」
「だが、グロセ家の事務官は彼女のみ。グロセ事務官と呼べば、何も問題ないのでは?」
 何を言っても、言い返されてしまう。ローランはがしがしと頭を掻いた。
「ヴィンセントが良しとしないのだよ」
 国王の声が、いっそう低くなった。
「エミーリア嬢の『闇』について、まだいい返事をもらえていない」
「ですが、エミーリア嬢を俺の補佐事務官とした時点で、それはわかっていたことではないのですか?」
 そのための団長補佐事務官だと思っていたのだが。
「その制度にしたのは、私が国王となり、お前が団長になってからだ。あのヴィンセントの下で働きたいと思う者は、老若男女たくさんいただろう? 『闇』の人選には適していなかった」
 ローランは前団長であるヴィンセントの顔を思い出す。むしろエミーリアの父親なのだ。自分と同じ系統の顔立ちではないのは、間違いない。
「だから、お前がエミーリア嬢を貰え。そうすれば、ヴィンセントも諦めがつくだろう?」
「しかし、彼女の気持ちは……」
「我々が感情によって結婚できると思っているのか?」
 国王は目を細めた。
「それは……」
 ローランは顔を逸らした。前王妃は隣国ロマシチから嫁いだ。そして前国王との間に生まれたのが、目の前にいる現国王であるルカーシュである。
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