【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 だが、それとこれとは別な話だと、ローランは心の中で憤っていた。
「お前も三十を過ぎただろう? いい加減、身を固めろ。その相手が前団長の娘であるなら、申し分ない」
「だが……。年が離れすぎている」
「我々の世界ではよくあること。気にするな」
「気にするなと言われても。向こうが気にするかもしれないだろう?」
「お前が、そうやって焦っているところなど、始めて見たな。ヴィンセントには『闇』から打診する。いい加減、諦めろと脅しをかける。お前は時期をみて、エミーリア嬢に求婚しろ。だが、その前に彼女を抱け。『闇』も人手不足でな。この辺り、不作が続いていたからね。即戦力が欲しい。いいな? 王命だ」
 王命と言われてしまえば、断りようがない。
「承知、しました」
 不本意ながらも、ローランは頭を下げた。だが、その言葉も行動も形だけである。
「私も父も、お前がこのまま一生独り身を通すのではないかと、心配していたんだよ」
 ルカーシュの指摘も間違いではない。むしろ、ローランは今でもそう思っているつもりだ。
 だが王命だと言われても、この場で言われたのであれば断ることもできる。それをしなかったのは、ローラン自身、エミーリアを手に入れたいと心のどこかで思っていたからだ。
 もしかしたら、その心の内を見透かされてしまったのだろうか。
「早く、孫を抱かせてやれ」
 そう口にしたルカーシュには三人の子がいる。将来は彼らのうちの誰かがこの国を導いていくのだろう。それを見守るのが、臣下である自分の役目であるとも思っていた。
「王命であれば……」
 まるでそれを免罪符のように、ローランは吐き捨てた。
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