【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 その日から数日間、ローランは国王の執務室を定期的に訪れる。
 目的はもちろん、魔力交感特例報告書を受け取ってもらうためだ。
 だが、何度書いて渡しても、目の前でビリビリと破かれてしまう。そのたびに「いい加減、あきらめろ」「エミーリア嬢と結婚をしろ」と言われる始末。
 それでもあきらめきれないのは、彼女とはもっと違う方法で出会いたかったという思いが、どこかにあったからかもしれない。
 この気持ちを一言で表すならば、間違いなく『恋』である。生を受けて、初めて味わった感情だ。
 ローランはどこか家族に憧れを持っていた。そんな彼を、彼女は自分の家族と同じように接してくれたのがきっかけとなった。
 もっと彼女の魔力を味わい、彼女を知りたい。そして、あわよくば自分も彼女と家族になりたい。
 だからこそ、この気持ちを封じる必要がある。
 彼女は『闇』で自分は魔法騎士団の団長という立場。まさしく影と光。彼女はこれから、ルカーシュのために汚れた仕事を一気に引き受ける。場合によっては、ローラン以外の男に身体を差し出す。それが、ローランには耐えられなかった。
 無垢な彼女を暴いていいのは、自分だけだ。
 複雑な感情が堂々巡りをする。彼女が欲しいと思いつつも、国王が言葉にする結婚には素直に頷けない。
 命令されたから結婚するのではなく、自分の意思で彼女に気持ちを伝えたいのだ。
 だが、その気持ちを自覚したときには、もう遅かった。
「やっとヴィンセントが折れた。少し、脅したがな」
 いつもは報告書を持って国王の執務室に訪れるローランは、今日にかぎってルカーシュから呼び出された。
「エミーリア・グロセを『闇』にする。そのつもりでいろ」
 ローランは唇を噛みしめることしかできない。
 それは、彼が彼女と出会って二か月経った頃だった。
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