【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 となれば、彼女に何が起こったのかは容易に想像がつく。感情が乱れ、魔導具の制御ができないのだ。
「お茶は俺が淹れる。君は向こうの部屋で待っていなさい」
「は、はい。ごめんなさい……」
 消え入るような声で呟いた彼女は、どことなくふらふらとした足取りで歩いていく。
 ローランは、その背を静かに見つめていた。
 湯を沸かす魔導具を扱えない程、彼女の心は乱れている。それが表情に出ていないだけ。
 その事実をどう受け止めるべきか。
 ローランは、ティーポットとカップを二つ載せたトレイを手にし、彼女が待つ部屋へと向かった。
 ちょこんとソファに両手を揃えて座っていたエミーリアは、ぴくりとも動かずにいた。
「エミーリア事務官、お茶が入った。君ほど上手くはないかもしれないが」
 彼女の前にカップを置くと、目を大きく広げて顔を向けた。
「ありがとうございます」
「まずは、お茶でも飲んで落ち着きなさい」
「はい」
 エミーリアはカップに手を伸ばすと、それを両手で包み込んだ。カップの温もりを感じているのか、なかなかそれを口元に運ばない。
 そんな彼女の様子が心配になり、いつもであれば向かい側に座っているローランも、このときばかりは隣に座った。
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