【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 それに、初めての相手がローランであって良かったとさえ思っている。だけど、そこを触れられるのは恥ずかしい。
「少し、温まろう」
 いきなり身体が浮いた。ローランは軽々とエミーリアを後ろから抱きかかえながら、浴槽に入る。
 熱すぎず、温すぎない湯ではあるが、それすら感じる余裕もない。触れ合った場所から伝わる体温は少し冷たく感じ、それと共に互いの鼓動を感じる。
 エミーリアのドクドクと緊張している音は、きっと彼にも伝わっているのだろう。
「今ならまだ引き返せる……」
 いきなりローランは、エミーリアの首元に顔を埋めた。
「この任務を断るというのであれば、今すぐにここから出ていきなさい。これが最後の忠告だ」
 首に触れる吐息が熱い。
 悩んで、悩んで、悩んで、悩みぬいた末の決断であるのに、心が揺らぐ。
 だが『闇』の存在を知り打診を受けている以上、ここから逃げ出したとしても今までと同じ生活は望めないだろう。
 控えの間にある資料を片っ端から目を通していたエミーリアだからこそ、今、ローランの側にいるのだ。
「私の気持ちは変わりません。団長のほうこそ、怖気づいたのではありませんか?」
 エミーリアは振り向くと、彼の太い首に腕を回し、自らローランの唇を貪った。
< 136 / 246 >

この作品をシェア

pagetop