【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
「大丈夫か?」
 腕の中の彼女を覗き込むと、ローランを真っすぐに見上げてくる。その顔が、微かに紅色に染められている。それでも頬の筋肉はぴくりとも動かない。
「あ、はい……」
「今日は、ここに来なくていい。屋敷で休んでいなさい」
「ですが……」
「君は仕事をよくやってくれている。一日くらい、君が休んでも大丈夫だ。あ、それは君が不要と言っているわけではなくて、だな」
 ローランは何を焦ったのか、必死で言い訳をしようとしていた。だが、その意図に彼女も気づいたのか、目尻を下げたように見えた。
「ありがとうございます」
 気持ちが伝わったことに、ほっと胸を撫でおろした。
「それから……。昨日の気持ちは、偽りではない。俺との将来を、考えておいて欲しい」
 自分で口にしながらも、ローランは恥ずかしくなった。
 驚いたように目を大きく広げたエミーリアであるが、彼女も恥ずかしいのか「はい」と俯き加減で答えた。
 その答えをもらえたことに満足し、名残惜しい気持ちもあるが、腕の中にいる彼女を解放する。
 身支度を整えるために浴室へと消えていく彼女の背を、もどかしい気持ちで見つめていた。

< 142 / 246 >

この作品をシェア

pagetop