【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 テントの上からでは、そのテントが何を売っている店なのかさっぱりわからない。わからないと気になるもので、やはりあそこへ足を運んでみたくなる。
 コンコンコンと扉を叩かれた。
「アン様。ご指名です」
 この時間にわざわざ呼び出されるとしたら、客から祭りへ一緒に行こうというお誘いだ。相手は誰か。バジムだろうか。
「はい。すぐに行きます」
 いつもであれば、この時間は動きやすい簡素なドレスを着ていた。だが今日は、いつ呼び出されてもいいように、朝から念入りに磨き、化粧をし、髪を結い上げ、それでも客と肩を並べてもおかしくないような、少しだけ気合の入ったドレスを着ていた。だが、こうやって指名が入るとは思ってもいなかった。
 店の下働きの男性に連れられ、エミーリアは店へと下りていく。
 エミーリアを待っていたのは、ママである。
「おはよう、アン。こちらのお客様があなたをお祭りに誘いたいそうよ。どうする?」
 蠱惑的な笑みを浮かべているママであるが、断ってはならないとその表情(かお)は言っている。
「もちろん、お受けいたします」
 深々と頭を下げた。
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