【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 青い空が眩しいが、エミーリアはフードを深くかぶっている男をじっと見上げる。
「ローラン様?」
「なんだ……。バレていたのか」
 彼はフードを少しだけ脱ぐと、その顔をエミーリアに近づけてくる。
「だが、他の者に知られると、いろいろと不都合だからな。ここでの俺はジャンだ」
「はい。どうか私のことはアンとお呼びください」
「それにしても……。これはよくできているな」
 ローランはエミーリアの後れ毛に指を絡めた。褒めているのは髪の色のようだ。この髪の色を変えたのはトレイシーだが、その魔法は未だに解けない。だからエミーリアの髪は、今日も艶やかな黒色であり、その髪をハーフアップにしていた。
「初めて会った時よりも、少し伸びたな」
 指を一本一本絡めとるようにして繋がれた手からは、しっとりと彼の温かさが伝わってきた。
「どこに向かわれるのですか?」
「どこに行きたい? この坂を下りれば、すぐに屋台が並ぶ路地に出る」
「ほかにどのようなことをやっているのですか? こういったお祭りは初めてでして……」
 エミーリアが興奮した様子でローランに尋ねると、彼は口元を綻ばせていた。
「俺も、慣れた場所ではないが。祭りには何度か来たことがあるからな」
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