【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 倒れた男の前にしゃがみ込んだリーダーの男は、血を流す男をじっと見つめている。
「痛いよね。楽になりたいよね」
「うぅっ……」
 遠く離れているエミーリアからも、男の太ももからどくどくと血が流れている様子がわかった。
 撃たれた場所が悪かったのだろう。早く治療しなければ、失血死してしまうかもしれない。
「俺って慈悲深いからね。君のその怪我、あっという間に治してあげるよ。って、そこのやつ。今、魔法を使おうとしたな?」
 リーダーの視線が鋭く射抜いた。その視線の先にいるのは、客として娼館を訪れていた官僚風情の男。
 くつくつとリーダーは喉の奥で笑う。
「だが、残念だったな。この建物内に、魔力吸引結界をしかけたからな。生活魔法すら使えないはずだ。使おうとした君なら、わかったんじゃないのか?」
 そう言われた男の顔が青白い。リーダーの言葉は事実なのだろう。
「さて、と。そろそろ一か所に固まってもらおうかな。俺たちも、そうやって君たちにうろちょろされるとね、余計な体力を使っちゃうからね」
「その方の……、治療をさせてもらえませんか?」
 おずおずと娼婦の一人が声をあげた。倒れている客の相手をしていた娼婦だ。
「あぁ。なんだって君は優しいんだね。君たちをおいて逃げようとした男なのに。だが、その心配はいらないよ。俺のほうで適切な処置をしてあげるからね」
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