【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 エミーリアはローランの手首に触れ、魔力を注ぎ込む。
「あっ」
 その感覚はいつもの魔力受け渡しとは異なる。エミーリアの魔力が、次から次へとローランに流れていく感覚だ。
(これが、団長が言っていた……)
 封じられるほどの魔力量がある自分であれば、大丈夫であると過信していた点はある。だが、そうではなかった。いくら魔力があっても、そのすべてがローランに奪われ吸収されてしまうのだ。
 仮に魔封じの腕輪を外し、すべての魔力を彼に流し込んだとしても、吸収されて互いに魔力枯渇に陥ってしまうだろう。
「団長……。魔力交感を……」
 うつ伏せになっている彼と唇を合わせるのは難しい。エミーリアも彼の隣で横になり、目を閉じた。
 こちら側に向いている顔に、そっと唇を合わせる。
 ローランの唇はひんやりとしていた。
 魔力交感は粘膜接触。力ない彼の唇を、エミーリアは柔らかく食んだ。
 何度かその唇をはむはむと刺激をすると、閉じていた彼の口がうっすらと開く。
 その隙間から、恐る恐る舌を差し入れた。
 ざらりとしたものが舌先に触れた。
(団長……。私と魔力交感を……)
 魔力交感は意識しないとできないとローランは言っていた。だからエミーリアは心の中で念じる。
(団長。目を覚ましてください……)
 乾いていた彼の口の中は、次第に潤っている。ぴちゃぴちゃと、唾液の絡まる音がする。
< 89 / 246 >

この作品をシェア

pagetop