【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 服を直し終えると、立ち上がる。いくら毎日掃除をしているとはいえ、絨毯の上に寝転んでしまった。ささっと手で埃を払うような仕草をする。
 隣の部屋へと続く扉の前に立つと、小さく息を吐いてから、ノックをした。
 ――トントントントン。
 だが、返事はない。扉に手をかけようかと思ったが、やめた。もしかしたら、眠っているかもしれない。転移魔法を使った父親も、その後は眠って身体を休めていた。
「団長。失礼ながら、魔力交感をさせていただきました。もし、不調がありましたら、何なりとお申し付けください」
 エミーリアはそれだけ伝えると、控えの間へと下がった。

 ◆◆◆◆ ◆◆◆◆

 扉越しにエミーリア気配を感じているローランは、激しく後悔をしていた。
 マヤンの砦からこの場所へ転移する前にも、魔法を使わねばならない状況が発生してしまった。
 マヤンの採掘場では、採掘した魔石を馬の背にのせて運ぶ。魔導車で運ぶには、採掘場前の道が狭いのだ。馬によって加工場まで運ばれ、そこで魔石を選別、加工して、各地へと出荷となる。
 その馬のうちの一頭が、ローランの目の前でいきなり暴れ出した。
 彼はすかさず眠りの魔法を使って馬を眠らせた。
 馬が興奮した理由を調べていくと、どうやら餌の一部に気を昂らせる薬草が紛れ込んでいたとのこと。遅効性のそれは、馬がちょうど魔石を積んだときに暴れ始めた。
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