【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 すぐ側に鉱夫もいたし、他の馬も興奮して暴れては困るということで、すぐに魔法を使ったのだ。
 これから王都に転移することを考えれば、魔力は温存しておきたかったが、そうは言っていられない状況であった。部下に任せればよかったのだが、そう判断する前に自ら動いていた。
 怪我する者もおらず、他の馬への影響もなく、その場は事なきを得た。それだけはよかった。自分の判断が間違っていなかった結果である。少しでも遅ければ、今頃、怪我人の一人や二人は出ていただろう。
 昼まで現地を見て回り、昼食を終え、最後に書類等の確認を済ませてから転移をした。
 懐かしい執務席が見えたところまでは覚えている。
 その瞬間、がくりと身体が崩れた。力が入らない。這って動こうとしても、それすら無理だった。
 なぜか脳内にはエミーリアの顔が浮かび、そのまま意識を失った。
 だが、すぐに夢を見た。
 彼女が自分の名を呼びながら、口づけをねだってくる。
(これは夢だ。夢の中なら問題ない)
 夢を夢であると意識できるほど、しっかりと意思を保てていた。
 そもそも、彼女はローランの名を呼ばない。夢だから叶えられている妄想だ。
 初めて触れる彼女の唇は柔らかく、もっと触れ合っていたかった。薄く開いた彼女の唇の隙間から、舌を忍ばせる。
 ぴくっと震える、彼女が可愛らしい。
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