【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 扉を叩かれたが、返事すらできなかった。
『団長。失礼ながら、魔力交感をさせていただきました。もし、不調がありましたら、何なりとお申し付けください』
 そう言って、彼女が扉の向こう側から立ち去る気配を感じた。
 シンと部屋は静かだった。外から訓練に励む騎士たちの号令が聞こえてきた。
 高まった身体を抑えるためにも、呼吸を整え、頭を真っ白にする。そうやって次第に落ち着きを取り戻し、マヤンからここへ転移した状況を思い出す。
 転移前にいくつか魔法を使っていた。
 時間になったため、あとのことはトラフィムに任せ、彼に見送られるようにして転移した。
 そしてここへ戻ってきた。
 そこまでは覚えている。だが、すぐに意識を失った。
 彼女が『魔力交感』と口にしていたところから推測するに、あれは魔力枯渇状態だったのだろう。薄れていく意識の中で、なぜかエミーリアを思い浮かべていた。
(なぜ、あそこで彼女を思い出したんだ……)
 頭からかぶった毛布をきつく握りしめる。
 だが、暑くなってきたため、毛布から顔を出す。
(そうだ。魔力枯渇状態であったから、自我を抑えられなかったんだ。そういうことにしておこう……)
 ローランは目を閉じ、大きく息を吐いた。まだ、少し身体は重い。
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