甘噛み吸血鬼は、トドメをささない (短)
悲しい事に、さっきは視界が霞んでいたのに、今は何もかもがハッキリ見える。体が元気なのが分かる。

どうやら私は、唯月くんの血を飲んで回復したらしい。


「ごめんね、唯月くん……」


気を失った唯月くんの首に開いた、二つの穴。

それは私の牙の太さに沿って、広がっている。しばらく見ていると、外側から徐々に穴が塞がって来た。

そう。

吸血された人間には、傷が残らない。そして記憶も、残らない。


「けど、私が同級生の唯月くんを襲った事実。それは、私の中で一生残る。私の記憶からは、消せやしない……」


本能に負けた自分が情けなくて、また涙が流れた。

吸血した事で満足した体は、落ち着いて来ていた。その証拠に、目の赤色が消え、牙も引っ込んだ。


「逃げるなら、今だよね⋯⋯」


唯月くんが眠っているうちに、と。私は教室を後にすべく、立ち上がる。

だけど、その時。

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